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1.9.8.5. 宇宙 ガ マルゴト ヤッテキタ !
今回の発掘は困難をきわめた。相手はあのバブルシステムである。80年代中期、まだ1MビットのEPROMが高価であったため、大容量を省スペースで使用するために使われていたのがバブルメモリ。それらを搭載した基板をバブルシステムと呼んでいるのだ。バブルメモリは起動時に暖めなければ使用できないというやっかいな代物、かつ磁気バブルメモリの特性によりちょっとした衝撃でデータが文字通り“はじけ飛ぶ”。ここまで苦労しながらも我々が発掘しなければならない理由。それは、このROMに入っているゲームがゲーム史に名を残す名作だからに他ならない。その名は『グラディウス』。今やただのシューティングゲームのひとつという認識しかされていないこの作品が、いかに時代を変えたのかを語っていきたい。
さあ今宵も、時代に埋もれしレトロゲームの歴史を紐解いていこう――。
プロローグ 老紳士からの依頼

先日、私の研究室に1人の老紳士が尋ねてきた。挨拶もそこそこに老紳士は私にぜひ見てほしいアーケード基板があるという。
包まれた緩衝材を丁寧に取り除いていくと、古いゲーム基板があらわれた。「富士通製のバブルメモリ素子2つに、64kビットSRAM2つ、74LS32を搭載した拡張コネクタ…。この独特な仕様はコナミ製、しかも
『グラディウス』じゃないですか!」。老紳士がニヤリと笑う。「さすがはレトロゲームレイダースと呼ばれているだけのことはある」。憮然とする私を気がつくと老紳士は謝ってきた。
「気を悪くしないでいただきたい。あなたの“目”がたしかなようで安心したのです。実はそのジョーンズ博士のウデを見込んで、お願いしたいことがあるのです」。「なんでしょう? 僕は食指が動かない仕事はしない主義ですよ」。
「
『オトメディウス』というものをご存知ですか?」。「ハッ、『オトメディウス』!知っていますよ。コナミ?デジタルエンタテイメントが2007年にアーケードにリリースした作品ですよね」。老紳士はつづける。「私は『オトメディウス』に魅了されてしまいまして、すでに
もう少なくない金額を関連グッズにも使っている」。「そうですか、でも“萌え”について語りたいのなら僕は適任じゃない。それは
父の専門だ」。
「だが、あなたはご存知でしょう?『オトメディウス』は見かけこそ萌え系シューティングだが、その根底の深遠には
壮大なグラディウス?サーガがある。萌え系というのはアプローチの手段に過ぎない。私はね、ジョーンズ博士。知りたいのですよ。かつて、
1985年のアーケード市場に何があったのかを。そして
グラディウスの真の価値とやらを、ね」。
老紳士の目は純粋な探求の光を讃えていた。壮年にしてねんどろいどやフィギュアにはまっている狂人のそれではない。私はため息をつくと、黒板の前に立った。「分かりました。私の知る限りのことをお伝えしましょう。グラディウスの起こした奇跡の数々を」。
第01章 グラディウスという物語

はるか昔、遠い彼方にある銀河系で、ひとつの惑星が絶滅の危機に瀕していた。突如飛来した謎の軍隊
バクテリアンの侵攻を受けたのである。バクテリアンは、膨大な無人戦闘兵器を有し、侵略した惑星を次から次へと有機生命体に変えていく。その目的や行動原理は不明。ただ、彼らの歩んだ道筋には、強力な生命力を持つ肉塊と化したバクテリアンの植民地が残るのみだった。
惑星グラディウスは、遠方宇宙への探索船が謎の消失を起こしたことを契機に、バクテリアンと交戦を開始。しかし、幾度となく行なわれた大規模戦闘にことごとく
敗退したグラディウス宇宙軍はその度に植民惑星を失い、ついにグラディウス本星が狙われるのも時間の問題といえた。
有史以来最大の危機を前に、グラディウス人のひとつの奇跡を起こす。敵?バクテリアンから奪取した技術を用いた
超時空戦闘機の完成である。“禁断の知恵を用いて勝利をもたらす者”、機体は
「VIC-VIPEER(ビックバイパー)」と名づけられた。
漆黒の宇宙へ飛び立つビックバイパー小隊に課せられたのは、敵移動要塞ゼロスへの奇襲。無論、行き着くまでは数々の敵防衛網を突破しなければならない。しかし、進む以外、彼らに生きる道はない。小隊の動きを察知して敵編隊が向かってくる。グラディウス宇宙軍総司令官は、最初で最後の指令をビックバイパーパイロットたちに贈った。
「Destroy them all!(奴らを皆殺しにしろ!)」
第02章 人々を魅了したグラディウスの宇宙
1.9.8.5.ウチュウ ガ マルゴト ヤッテクル。
↑これはアーケード版グラディウスのキャッチコピーである。このことからも分かるとおり、『グラディウス』がゲームプレイヤーにもたらしたもの、それは
「宇宙」である。
もちろん、それまでに宇宙を題材にしたゲームは他にもあった。それらと一線を画したのは、独特のステージ構成をはじめとする世界観だ。ステージ01からその様子は見られる。重力を無視した画面の上下に大地のある構成はその象徴といえるだろう。

ステージ02と03にいたっては、「ストーンヘンジ」、「モアイ」。まるで私たちが知る地球の遺跡が外界からもたらされたと言わんばかり。このようなギミックを用いることで、神秘性のあるステージを作り出している。


ステージ04は「逆火山」。前半の敵の弾幕を潜り抜けていく攻防戦、後半の重力の法則を無視した逆火山といった怒涛の展開は、プレイヤーが持つ常識をことごとく打ち砕く。

ステージ05、06では、「触手」や「細胞」が出現。これがまた、敵バクテリアンが我々と同じ人型の宇宙人ではなく、まったく得体の知れないもの。そして、我々の想像を超える“生命力”を持つ脅威であることを認識せざるを得ない。


かつてナムコの『ゼビウス』は、ただの時間つぶしであったゲームに壮大な物語と設定を盛り込み、ゲームに創作物という“作品”に昇華させた。『グラディウス』はその先を行き、独自の世界観を色濃く表現することに成功した。「グラディウスの宇宙」─―そこには他の作品では描けない魅力がある。
第03章 パワーカプセル方式が広げた攻略の自由性

シューティングゲームにおいて自機のパワーアップは外せない要素ですが、『グラディウス』では実に個性的なパワーアップ方法を取り入れている。それが、
パワーカプセルによるパワーアップ方式だ。
編隊やレッドカラーの敵を撃破すると出てくるパワーカプセルは、取得した数によって任意のパワーアップをすることができる。1つなら「SPEED UP」、2つなら「MISSILE」、3つなら「DOUBLE」、4つなら「LESER」、5つなら「OPTION」、6つなら「BARRIER」。つまり、これまでの「弾が増える」アイテムを取ることでパワーアップするといった作品とは異なり、「今、そしてこれからどんな装備が必要か」を自分で考え、選択する自由が与えられているのだ。
これはシューティングゲームの
“革新”だった。なぜならば、プレイヤーによる選択によって、攻略方法も、難易度も、変わってくるからだ。「あの人はここでミサイルを装備せずに機動力でカバーするのか」、「ダブルよりもレーザーを取って強行突破する気か」、「ゲエーッ、真っ先にオプションかよ」というように、プレイヤーの数だけゲーム内で起こるドラマが異なった。
さらに特筆すべきは、パワーカプセル方式によって、「一度やられてからの立て直し」がより面白くなったこと。敵の脅威に前に、無装備という絶望の闇を振り払うパワーカプセルという光明。解法はひとつではない。「自分ならどうするか?」。一瞬の判断が分ける生と死。希望を積み上げられるものだけが先に進めるというゲームデザイン。絶妙である。
『グラディウス』は、シューティングゲームという世界の中に「プレイヤーが介入できる要素」を多分に入れた。もはや戦局を左右するのは「シューターとしてのウデ」だけではない。プレイヤーが生み出す「戦略」も重視されるのだ。それは、横シューティンクゲームの
新しい夜明けであった。
第04章 並行世界(パラレルワールド)による可能性

『グラディウス』は初代アーケード版を中心に数々の移植作品が存在するのが、この多くはストーリー的なつながりがない。惑星グラディウス、敵がバクテリアンといった共通事項こそあるが、それ以外はオリジナルであったりする。
それらは、「もしかするとあったかもしれない戦いの可能性」であり、並行宇宙における戦いの記録としてグラディウス?サーガに組み込まれている点にも注目したい。特に、
MSXにおける『グラディウス』の独自展開は秀逸であり、一度はプレイするべきだと提言する。
エピローグ 老紳士の謎

講義が終わると、その老紳士は握手を求めてきた。「ジューンズ博士、素晴らしい講義だったよ。私はこれで、自分が何のために生まれ、どこへ向かうべきかが分かった気がする」。「チカラになれたようで、こちらこそ光栄ですよ」。「うむ、そろそろ時間のようだ。随分長居をしてしまってすまないね」。老紳士はコートを羽織り、目深に帽子を被る。
「そこまで送りましょう」。私の申し出を老紳士は遮る。「いやいや、もうここで充分です。充分ですよ」。ガチャリ。研究室の扉を開けかけて老紳士はこちらを振り向いた。隙間から漏れる光の加減か、紳士の肌が緑がかって見える。
「ジョーンズ博士。レトロゲームの命の火は何が起きたときに消えるんだろうか。ハードが終わった時だろうか。ソフトが遊ばれなくなった時だろうか」。私は少し考えて答えた。「
人々の記憶から消えたときでしょう。しかし、覚えている者も、語り継いでいる者も、大勢いますよ」。老人は笑った気がする。「そうだ、あなたのお名前を聞いていなかったですね」。老紳士は答えた。
「
ヴェノム。ヴェノム博士と呼ばれておる」。
気がつくと、扉は閉められていた。急いで追いかけたが、すでに研究室周辺に老紳士の姿はない。まるで忽然と、この世界から消えてしまったようだ。研究室に戻ると、バブルシステム基板も消えていた。私は夢を見ていたのだろうか。
その時、研究室の電話が鳴った。出てみると助手のキャサリンからだ。「博士宛に一抱えもある大きな荷物が届いています。差出人の住所は書かれておらず、変な英語が書かれているだけなのでイタズラの可能性もあります。どうしますか?」。「キャサリン、書かれていたという英語を教えてくれないか」。
「
G.O.F.E.R…なんて読むんでしょうか?」
ゴーファーか。眩暈がした。どうやら私が見ている夢は、まだ終わっていないらしい。
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